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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14298号 判決 1986年7月24日

原告

三和自動車販売株式会社

被告

株式会社トーサイ

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告に対し三〇四万四二〇〇円及び内金二七九万四二〇〇円に対しては、昭和五九年九月二一日から、内金二五万円に対しては昭和六〇年一二月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し四〇九万五六〇〇円及び内金三七二万五六〇〇円に対して昭和五九年九月二一日から、内金三七万円に対して昭和六〇年一二月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五九年九月二〇日午後八時五〇分頃

(二) 場所 群馬県高崎市幡原町七九六の二関越道下り車線上

(三) 加害車 被告株式会社トーサイ(以下「被告会社」という。)所有の普通貨物自動車(川崎四四す三七一六)

(四) 右運転者 被告中島裕(以下「被告中島」という。)

(五) 被害車 原告所有の普通乗用車(練馬三三つ三七五二)

(六) 右運転者 訴外市川禎一(以下「市川」という。)

(七) 事故の態様 加害車が、右ウインカーを出すや否や、右方へ車線変更したため、同車線上を進行していた市川運転の被害車が、加害車に追突し、損傷した。

2  責任原因

被告中島は、車線変更を行うに際しては、予め進路変更の合図をしたうえ、道路状況並びに変更後の車線上の他車の進路状況を十分把握し、他車の通行の安全を損わないようにして車線変更をなすべき注意義務があるのに、これを怠り、右側ウインカーによる合図を出した直後に、急激な進路変更を行い、市川運転の被害車両の進路直前に割り込んだため、被害車として被告中島運転の加害車に追突のやむなきに至らしめたものである。

よつて、被告中島は、民法七〇九条により、被告会社は、被告中島の使用者であり、本件事故は業務中に惹起されたものであるから、民法七一五条により、それぞれ原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  損害 四〇九万五六〇〇円

本件事故により、原告所有の被害車は大破され、修理代金三七二万五六〇〇円を要する損害を被つた。

また、原告は、被告らから任意に損害の賠償を受けることができないため、本訴の提起と追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用を支払うことを約したが、その弁護士費用のうち三七万円は被告らが負担すべきである。

4  よつて、原告は、被告に対し前項の損害合計四〇九万五六〇〇円及び弁護士費用を除く内金三七二万五六〇〇円に対しては本件事故発生の日の翌日である昭和五九年九月二一日から、弁護士費用三七万円に対しては本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一二月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1はその(七)のうち加害車が右ウインカーを出すや否や右方へ車線変更したとの点を除きすべて認める。

2  同2ないし4は否認ないし争う。

三  抗弁

被告中島は、関越道下り車線の左側を時速約九〇キロメートルの速度で進行中、先行する普通乗用車を追い越すべく、右側ウインカーによる合図をしながら右側追い越し車線に出て運転中であつたから、市川としては、先行する被告中島の自動車に追突することのないよう前方を注視しながら減速して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、時速約一三〇キロメートル以上の速度で進行した過失がある。

よつて、仮に被告中島に過失があつたとしても、市川も右のようが過失があつたから、八割の過失相殺をすべきである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1はその(七)のうち加害車が右ウインカーを出すや否や右方へ車線変更したとの点を除きすべて当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様及び責任原因・過失相殺の抗弁について判断する。

1  成立に争いない甲第三号証の記載、証人市川の証言及び被告中島本人尋問の結果並びに前記当事者間に争いない事実を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  被告会社の社員であつて主として防水工事に従事している被告中島は、酒気を帯びながら加害車を運転し、関越道下り車線を時速約九〇キロメートルで走行して本件事故現場手前付近にさしかかつた際、先行車と約三〇メートルに接近したためこれを追い越すべく右側追越車線に進路を変更しようとしたのであるが、追越車線には同一進路を後行から進行してくる車両があつたにもかかわらず、後方からの交通の安全を十分することなく、ウインカーを出しただけで急に追越車線に進入したため、追越車線を後方から進行してきた市川運転の被害車に追突された。

(二)  他方、原告の社員であつて自動車の販売業務を担当している市川は、被害車を運転し、関越道下り車線の追越車線を時速約一三〇キロメートルの速度で走行して本件事故現場手前付近にさしかかつた際、左側車線を先行して走行している被告中島運転の加害車を認めたが、加害車が追越車線に進入してくることはないものと軽信し、特段減速することなくそのままの速度で進行を続け、二三〇メートルの距離に接近したところ、加害車がウインカーを出して急に追越車線に進入してくるのを発見したので、急ブレーキをかけたが、間に合わず、加害車に追突した。

以上の事実が認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は、叙上認定に供した各証拠に照らしてたやすく採用し難く、他に右認定を覆えすに足りる確かな証拠はない。

2  右認定の事実によれば、被告中島には後方からの交通の安全を十分確認することなく急に追越車線に進入した過失があるというべく、しかも弁論の全趣旨と被告中島本人の供述によれば、被告中島は、勤務先である被告会社の業務執行中に本件事故を惹起したものであることが明らかであるから、被告中島は民法七〇九条に基づき、また被告会社は民法七一五条に基づきそれぞれ本件事故により発生した損害を賠償すべき義務があるものといわざるをえない。

また、前記認定の事実によると、原告の社員である市川には制限速度を超える速度で被害車を運転し、かつ、左側車線を進行する車が自車の前方の追越車線に進入してくることがないものと軽信してこれらの車の動静を十分注視しないで進行していた過失があるというべく、この市川の過失を被害者側の過失として加害者側、被害者側双方の過失の態様、程度を比較検討すると、被害者側の過失割合は二五パーセントとみるのが相当で、これを損害賠償額の算定にあたり斟酌することとする。

三  進んで、原告の損害について判断する。

1  被害車の損害 二七九万四二〇〇円

成立に争いない甲第二号証の記載と弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告所有の被害車は大破し三七二万五六〇〇円の修理費用を要する損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

したがつて、原告は、被告らに対し右損害額から二五パーセントを控除した二七九万四二〇〇円を被害車破損による損害として請求しうることになる。

2  弁護士費用 二五万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起と追行を原告訴訟代理人に委任しその報酬として相当額を支払う旨約したものと推認されるが、本件訴訟の経過、請求認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として請求しうる弁護士費用は二五万円をもつて相当と認める。

四  よつて、原告の被告らに対する本訴請求は以上の損害合計三〇四万四二〇〇円及び弁護士費用を除く二七九万四二〇〇円に対しては本件事故発生の日の翌日である昭和五九年九月二一日から、弁護士費用二五万円に対しては本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一二月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容するが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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